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「モンスター」と呼ぶこと

 私は病院勤務ですが、先日、自らの要求を繰り返し主張し、どうしても無理を通したい、という患者家族へ対応したことがありました。
 プライバシーに関わることですし、本旨とあまり関係がないので、詳細は書きませんが。

 その方が主張される要求というのは、病院として、医療の公平性(=経済力や社会的地位に関係なく、必要な人に必要な治療を提供すること)から受け入れることができない内容でした。
 加えて、要求を受けてしまうと、逆にその患者・家族の人生を圧迫する事態が懸念されたため、お断りするしかなかったのです。
 しかしながら、「どうしてもこうしたい」と主張してくる背景には、その人なりの理由があるはずです。

こちら(病院職員)としては、
・要求はどうしても受け入れられないこと、受けてしまうと起こる問題について理解してもらう
・要求の裏にある、病気や今後の生活への不安や恐れについて、気付いてもらい、話してもらう
・その不安や恐れを解決するために、他の方法を提案したり、一緒に考えたりする
・他の方法がとれない理由(心理的、経済的、物理的、etc)も確認する
・これらを踏まえた上で、実現可能な解決策を考え、具体的にどうやって動けばいいか、誰が何をできるのかを検討する
という対応を取らせてもらおうとしました。

 1週間以上かかり、長い日は一日5時間ほど、表現を変え、対応する職員を変えながら、丁寧に答えていたつもりでしたが、最後のほうには、こちらの表現を曲解され、かなり乱暴な口調で、理不尽と思われるような非難や訴えをしてこられるようになってしまいました。

 このような事態が起こった時に、近年、「モンスターペアレント」、「モンスターペイシェント」という呼称が用いられるようになってきたようです。教育や医療の現場で使われ始めたものだと記憶しています。

 私はこの言葉自体も、言葉を用いることも、感覚的に嫌いです。

 言葉自体に関して言えば、片仮名で表現を和らげているつもりでも、意味としては、人間同士で「とれるはず」のコミュニケーションがとれない、怪物である、ということです。
 そしてその言葉を用いることは、相手を「怪物」にカテゴライズし、我々が安住「できるはず」のシステムの調和を乱す存在として、全面的に罪をかぶせようとする行為です。
 コミュニケーションとは本来、相手と自分がいて、双方のやりとりで構築されていくものです。他者と自己との間で、普通にしていれば、コミュニケーションがとれるはずという前提も、自らが属する社会システムが常に調和のとれたもので、そこに安住できるはずだという前提も誤りです。
 排除の論理が働きそうなとき、私は、感覚的に拒否してしまいます。

 ここで重要なのは、悪意の有無です。
 悪意、つまり、相手を傷つけたり陥れたり危機にさらしたりすること自体を目的に(或いは容認)した行動は、当然に非難されるべきです。悪意によって安定が乱される場合、悪意から逃れる、或いは悪意を遠のける必要があり、そのためのシステムも必要です。(これはこれで大変難しい問題なので、ここではこれ以上触れられません。)
 悪意の見極め自体も難しいとは思いますが、私が今回対応したケースは、悪意というよりも、どうしていいかわからず混乱を極めてしまったように感じました。

 実際、私もこのケースに対応したため、予定していた仕事ができず、他の方との相談業務も行えず、周り(患者、同僚、自分の家庭)に少なからぬ迷惑をかけました。このような状況に陥ってしまったことに戸惑いましたし、自分に特段の落ち度はなかったと思ってはいます。
 しかし、相手を「モンスター」と呼ぶことをしたくもありません。
 人間関係を構築する過程の理解の最中で、失敗してしまったのです。

 患者家族にとっては、病気の苦しさと、そこから生じる日常生活の苦しさを、何とかしたい、というのが今回の行動の根本的な動機です。他に得られるはずの支援を拒否してしまうのは、こちらとしてもやりきれない思いでしたが、支援を得られたとしても、今の日本では、患者と家族が望むような生活は得にくいのが現実です。
 私はあくまで組織に属した立場から対応しました。相手から私個人への理不尽な非難が始まった時、組織は守ってくれました。
 この立場の違いから両者の関係性を構築するとはどういうことか、常に考えなくてはならないと思うのです。
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